

意外とデカイ、というのが第一印象だった。
フォトプロップスドリンクは自撮り用の飲み物である。ジュースに仮面がついてくるのだ。
私は、運ばれてきたそれをまじまじと眺めた。グラスと、その中を満たしている赤色の液体、そこへ刺さっているストロー、そしてストローにくっついている仮面。仮面に描かれているのは、顔の下半分から胸までの二次元のメイドさんだ。
顔の下半分にあてて自撮りをすればメイドさんになりきれる、というものだった。
大胆でぞんざいなシュールがそこにはあった。
自撮りアイテムとしては画期的だ。容姿のなかで鼻から下と鼻から上ならばもちろん鼻から下の方がコンプレックスなので、そこを美人に変換できるアイテムがあるなんて喜ばしい。
しかしなぜ仮面は二次元のイラストなんだろう。もしくは、なぜ私は二次元の美女に生まれてこなかったのだろう。
そんな次元の壁を感じた。
とりあえず自撮りしてみる。三次元のリアルの物体として見るよりは、写真にしたほうがまだ「変身してる感」が出るような気がしなくもない。
しかしやっぱり「飲み物と私」という域は出ない。仮面は二次元だからだ。そして私は三次元の冴えない人間。
一口飲んでみる。いちご味の炭酸ジュースだ。うまい。けっこう炭酸がつよい。
飲みにくい。メイドさんは、飲み口側から見ると使用方法の書かれている紙なのだが、そこそこ大きいのでストローをくわえると下半分の視界が消える。
ストローを調整しようと角度を変えると、逆流して少しふきこぼれた。メイドさんの裏側が濡れてテーブルに小さな水たまりができる。
物理をまじめにやっておけばよかった。
私にはふきこぼれた原理がまったくわからなかった。少なくとも、中学高校の六年間まじめに物理と向き合ったうえで理解できなかったのではない、決して、そんなことはないはず。
おしぼりで原因不明のふきこぼれを拭き、私は仮面をストローから引き抜いた。
よく分からないけども原因不明のふきこぼれはこの正体不明の仮面がすくなからず影響しているんじゃないかと思ったのだ。
ただの炭酸ジュースになってしまったそれを飲む。ふつうに美味いけど、これが千円か、と思った。何度か思った。
わかる。わかるよ。誰かと飲めば楽しいんだろうきっと。ツッコミどころの多さは話題の多さに直結するんだろう。
覚えておいてほしい。シュールというのはふたり以上いれば話題にして楽しめるが、一人だとただ見つめ合うしかできないのだ。
シュールと、見つめ合う。
予想外に孤独を感じてしまった。
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