ひきこもりの葛藤(アキバ絶対領域A.D.2045編)。

注文するべきものは分かっている。

私はメニュー表をめくりつつ、普段の倍以上のまばたきをキメながら店内の様子をうかがった。

アキバ絶対領域4号店、その名も「アキバ絶対領域A.D.2045」。

狭くて明るい店内は、十六席あるうちのほとんど全てがうまっている。外国人観光客、男性一人客、女性二人客……。

メイドさんがテーブルの間をぬって楽しげに接客している。私がメイド喫茶に来店するのはこれで通算十三回目だ。

いい加減慣れたい。そう思いながらページをめくっては戻し、めくっては戻す。

穴があくほどながめた「ねこじゃらしセット」という文字列にもう一度穴をあけた。

ねこじゃらしセットをご存知だろうか。3,300円+税のセットメニューで、①にゃんにゃんカクテル②400円+税のおつまみ③チェキ④ライブ、を堪能できるのだ。

おつまみ、チェキ、ライブの並びにあってひときわ異彩を放つのが「にゃんにゃんカクテル」である。私は以前、べつのセットメニューでにゃんにゃんカクテルを味わったことがある。

具体的なことを省いてイメージだけをお伝えすると、にゃんにゃんカクテルとは、今までの人生のすべてを捨てて、新たな人生を得るメニューである。

私はそもそも、五月のプールみたいな人間だ。体中の水分がコクを手に入れてしまったのだ。

深緑色の藻が頭の先から足の指までを満たしているし、そのよどんだ状態を心地いいと思えるレベルに達している。原因はわかっている、引きこもりすぎた。

「平坦な日常こそ至高」という崇高な理念のもとに引きこもっていたわけでもないが、なんとなく家が好きで「出かける友達もいないし」「行くあてもないし」と言い訳しつづけていた結果、大学へ行く日以外で出かけるのは月イチという立派な引きこもりになり「新鮮さ」はイコール「暴力」となった。

それが悪いわけではない。ただ、にゃんにゃんカクテルに挑むためのスペックとしては無謀だ。

小心者の引きこもりが、半端な覚悟で「コレください」とにゃんにゃんカクテルを注文したが最後、どこにあるかも忘れていた栓を抜かれ、すべての藻が流され、萌えという名の新鮮な水をじゃぶじゃぶと注がれるのだ。

にゃんにゃんカクテルは失う物も得る物も非常に多い。

私は深く息を吐き、メニュー表から顔を離した。

これ以上ながめていても配色とフォントがちょっと強めに海馬へ残ってしまうだけだ、意味がない。

今日はねこじゃらしセットを頼むと決めてきたのだ。ライブを見たい、チェキもとりたい、自分の殻をやぶりたい。さあ、にゃんにゃんカクテルを味わうぞ、単品のパフェなぞを注文してこれ以上太っているひまはない。

メイドさんにアイコンタクトで訴えて、注文をとりにきてもらう。

「カフェオレとパフェください」

地図

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