斉藤家に寝袋置いてきたぞ。

斉藤家、思ったより家電がそろっていた。

そろっていたが大半はまだ段ボール箱におさまっていた。一人暮らしを始めて数週間経ったものの、なんだかんだと手間取り、実際に住み始めてからはまだ数日しか経っていないらしい。

今回は寝袋を置きにいっただけで、実際泊まるのはまた別の日である。

新しい畳の匂いがした。炊飯器も新品だった。

まさか米を炊ける環境が整っていると思わなかったのでカップ麺を持って行ったのだが、斉藤家に到着してすぐ土産物をどさどさ出しているところで、米を炊けると知った。

私は「カップ麺持ってきたよ」と言いながらもう密封を解いていた。斉藤は言った。「炊飯器あるから米炊けるんだよね。米炊きたい」

私は、米を炊くのにカップ麺も開けてしまったというショックが大きすぎて、直前に言われた「カレンダー持って来たの? 捨t……ありがたいけどいらないわ持って帰って」のダメージはほぼゼロだった。

白飯にカップ麺。苦し紛れにでてきた単語は「汁物」だった。

カップ麺は汁物だから、白飯のおかずにしようと。斉藤に提案してみると、斉藤は鼻で笑った。了承の合図だった。

というわけで米を炊いた。私は日がな一日家にいるので、よく米を炊いている。

対する斉藤は二年近く米を炊いていないという。私が斉藤にマウントをとれる機会はなかなか無いので、久々にマウントをとっておいた。

「斉藤、私はよく米を炊くから分かるが、たぶんお前は一回の飯で一合も食わねぇと思う」

べつに全然むなしくない。

そしていざ米を炊きながら、ためしに使ってみようと家じゅうのすべての家電へいっせいに電源を入れひととおりブレーカーを落としたところで、私たちは炊飯器以外の家電のコンセントを抜いてまわった。

マウントよりさらにむなしかったのはカップ麺だ。近所のスーパーできんぴらごぼうと唐揚げを買い足し、いざ夕飯になっても、私は惣菜に口をつける余裕がほぼ無かった。

白飯と汁物に苦戦していたのだ。炭水化物の暴力であった。

斉藤はけろっとした顔で白飯もカップ麺も惣菜もたいらげていた。先ほどマウントをとったばかりだが、こいつほんとに一合食うのかもしれない、と思った。

斉藤の家に数時間滞在して、物の大切さを実感した。今までは学校の備品にしろ友達の家にある家具にしろ、物の所有者は「学校の人」とか「友達の家の人」とか、自分とは関係ない偉い人だった。

それが「斉藤」になると、斉藤の労働時間がお金に直結して、それを削りながら生活しているのがすごくよく分かったので「水クッソ冷たいんだけどお湯つかって米といでいい?」と聞けなかった。

そして水しか使えないと思うと指先が死にそうだったので、皿洗いはお言葉に甘えて斉藤に任せてきた。

ありがとう斉藤。泊まりに行くのが楽しみだ。

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