「萌え」と、雑居ビル。

今年に入ってから、秋葉原のメイド喫茶をめぐっている。

私は女だが、もともと萌え文化が好きだった。

「萌え」というとイコールで「若い女」が語られる気がするけれども、私が惚れたのはそこじゃない。

むしろリアルの若い女は実生活で「萌え萌えきゅん」とは言わない。

「萌え」とは、いわゆるオタクたちが求める「理想の女性像」なのだと思う。生身の女性よりも概念にちかい。次元も年齢も、時には種族も問わない。犬だったり猫だったりするかもしれない。

「萌え」を与える女性は、理想像をできるだけ魅力的に自分へ投影させるプロフェッショナルだ。オタクはその裏の生々しさは詮索せず、与えられる「萌え」を純粋に受け取る。

そういう、与える側も受け取る側もストイックな「萌え」に惚れていた。

しかし結局のところ、私が知っていたのは、家でパソコンを通じて触れる「萌え」だった。私のなかでつくられた理想にすぎなかった。

実際に秋葉原をめぐると、萌えからは程遠い世界を見ることが多い。良心的に楽しめるお店だって、雑居ビルや駐車場や自動販売機やたばこを吸っているサラリーマンや、そういう現実世界の中にあるのだ。

パソコン画面で見られる、切り取られた「萌え」とはちがう。

小心者ゆえに、メイド喫茶までたどり着けず引き返したこともある。

その日は大通りから何本か裏に入った通りの、とある雑居ビルをめざしていた。商店街の名残を感じるような、四十年くらいの時の流れがにじむ区画だった。

スマホのマップと格闘しながらようやく見つけたのは、閉鎖的な雑居ビルだった。メイド喫茶の入っているビルというよりも、高度経済成長期に四人家族が住んでいたアパートと言った方がイメージが伝わる気がする。

外観の写真を撮ろうと入口からすこし離れると、若い男性が早足で中へ入っていった。なんとなく、人の目を遠ざけようとしているように見えた。

写真を撮ってから私も中へ入った。エレベーターは見当たらなかったので、階段をのぼった。蛍光灯はついているものの、壁で囲われた、暗く狭い階段だ。階段の踊り場にじかで扉がくっついているタイプの建物だった。その時点でだいぶ緊張していた。

上階を目指していたのだが、二階の扉にあやしげなピンク色の看板がかかっているのを見つけて、私は一瞬立ち止まった。

やべぇんじゃね?と思ったのだ。何がどうやべぇのかは分からない。数分前、早足ですべりこんでいった男性の後姿を思い出した。あの男性はどのお店に入ったんだろうか。

目的のお店の口コミは、Twitterでいくつも見てきた。写真も載っていた。だからきっとあやしいお店ではないんだろう。そしてこのピンクの看板がかかっているお店も、きっと法律にのっとってきちんと運営されているんだろう。

何もやべぇことは無いと自分に言い聞かせて階段をのぼった。そして、店名の看板がなく、「営業中」という札だけがかかっている扉の前で立ち止まった。

階数の表示は見当たらない。私はいま何階にいて、目指すお店はどこにあるのか、リアルに分からなくなった。

勘が正しければこの扉だけれど、どうやら営業中らしいけれども、店名が分からない。

開けてみようかどうしようか迷っていると、どこの階かは分からないけれど、扉のすぐ近くで人が動く気配と、談笑しているような声がした。

なんとなく、ここで誰かに出くわしてはいけないような気がした。誰に出くわそうが、そりゃ平然としていればいいんだろうが、こんなことを考えている時点でしらけた顔は作れない。

はやくこの廊下&階段から姿を消さねば。思い切ってドアノブに手をかけ回した。しかし扉が開かない。カギがかかっているのだ。

営業中と札のかかっている扉に、カギがかかっている。

私は数秒フリーズしてから、あわてて引き返した。

「萌え」とは、概念だ。

実際の世界に存在しているのは人間だけである。メイドさんだって、対峙すれば、どうにもこうにも人間に見えてしまう。

メイドさんだからといって、「メイドさん」というコンテンツとして人間と別枠に見ることはできない。

メイド喫茶にも、人間がいて、時間が流れていて、お金を払うというリアルがある。

それでも、メイドさんの声質や笑顔や気遣いに「萌え」を感じられるのもたしかだ。

「萌え」はメイドさんの内側ではなく、メイドさんの外側に概念として浮かんでいるんだと思う。それに触れているメイドさんと一緒に、私も「萌え」を眺めることができる。

接客スキルの高いメイドさんは「萌え」があたかも内側にあるかのように見せてくれる。

楽しい。あたたかい気持ちになる。いくつかお店をまわっただけだが「また会いたい」と思うメイドさんが何人もいる。

同時に、秋葉原でいわれる「萌え」とは、私が考えているよりもっと物理的なものなんじゃないか、と思うようになった。

もし「萌え」が概念ではなく、雑居ビルや生身の人間をひっくるめた、物理的にさわれる物だとしたら、それはまだレベルが高くて理解できない。

理解できないままのほうが良いような気もする。きっとその「萌え」は気軽に楽しめるようなものじゃなくて、現実世界と同じだけの痛みも含まれているんだろう。

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