午後二時。私はパソコンの前で湯たんぽを抱えながら、貧乏ゆすりをしていた。
何か面白いことねぇかな。
私は貧乏ゆすりをしながら天井を見上げた。膝だけでなく体全体も揺らしてみる。髪がくさい気がする、やめてくれ嘘だと言ってくれ毎日十五分かけて洗ってるんだ。
そのまま角度をすこしずつ背骨の限界に近づけていき、パソコン眼鏡と私の体が床へ落ちそうになったとき、思いついた。
八分丈のジーンズで外出しよう。
真冬にあえて寒々しい恰好で出掛け、その心境をリポートしてみよう。面白そうだ。
思い立ったが吉日、善は急げ。私はマックススピードで八分丈ジーンズへ足を通して玄関を出た。
その瞬間「オポッサム」と呟いてしまうくらい足首に恐怖を感じた。
せっかくだからすこし遠出した。街ゆく足首を見てみると、思いのほかみなガードがかたい。そして黒い。コートやブーツは淡い色も多いのに、足首はだいたい黒い。
私は足首を外気にさらしながら、無駄な寒気とともに、少しワクワクしていた。
しかし結論からいえば途中で寒さにも慣れたし、高校生のスカートの方がよっぽどインパクトでかいし、半ソデ半ズボンの小学生を見た。
私の頭には「予選落ち」という言葉が浮かんだ。
しずかに帰った。寒かった。無駄なことをしてしまったと思った。
帰ってホットカーペットのうえで必死に足首をあたためていると、天気予報士が「あしたは夕方から雨です」と言ったので、翌日は夕方から外出することにした。
何のハプニングもない人生を送っていると「あちゃー雨降ってきちゃったー」程度のハプニングにも自らぶつかりに行きたくなる。この思考回路、何かの実験データの役に立てれば幸いだ。
というわけで翌日は、昼間ダイソーで300円の傘(初日から粗が見えるくらいクオリティは低めでした)を買うところからはじまった。
夕方、意気揚々と傘をたずさえて家を出た。
最寄り駅へ向かう途中で雨が降ってきた。
雨の降りだした瞬間がこれほどうれしいのは初めてだった。
「勝った」
私はなぜか、勝利を感じた。昨日は八分丈のジーンズを履き「すごく面白いことをしているんじゃないか」と街へ出たら予選落ちだったが、今日は勝った。
雨が降ると予測された時間に合わせて家を出て、ちゃんと雨が降ってきた。
しかも私は新品の傘を持っている。
やった。予報通り、テレビの言ったとおり、だからそれは、つまり、勝利したのは気象予報士だ。
私は帰って濡れた靴下を脱ぎ、冷えた足をホットカーペットであたためながら思った。
「でもわりとおもしろかったな」
現場の引きこもりからは以上です。