高校一年生の秋だった。生物部に所属していた私は、ふと気になった。
「ライオンとトラが戦うと、どっちが強いんだろう」
ライオンとトラは、十二支以外では同じくくりとして、同程度の強さとして扱われることが多い。しかし一対一で戦えば必ずどちらかが勝つだろう。それはどちらだろうか。
この、突然思いついた素敵な議題について、放課後に部活仲間と楽しく、時に先輩も交えてあつく語り合うなんてことは一切なく、私はひたすらネットで調べた。
そしてそれを部活内でプレゼンした。まごうことなき黒歴史である。
たしか、私はあの時どうしても次期部長になりたかった。
次期部長が発表される季節もすぐ近くまでせまっていた。だから何らかの形で熱心さをアピールしたくて、考えた結果に黒歴史を生産してしまったんだと思う。
いま考えれば、とてもどうでもいいいし、果てしなく、果てしなくどうでもいい議題のチョイスだった。
世の中に佐藤姓と斉藤姓のどっちが多いのか、と同じようなものだ。どっちも多い。以上である。
むかしは「佐藤斎藤馬の糞」と言って、道に落ちている馬糞のように佐藤も斉藤も大量にいることを表したらしい。そこに多少の人口の差などは関係ない。
しかし「佐藤斎藤馬の糞」は、馬糞がそこらじゅうに転がっている環境が強すぎて、佐藤と斉藤の話がかすんでしまうのでやめてほしい。姓の人口を気にする前にまず生活様式を見直した方がいい。
話がそれた。ライオンとトラだ。どちらも強い。以上である。
けれども思いのほか、ネットには「ライオンとトラのどちらが強いのか」を考察している人間がいた。専門知識を取り入れた、かなり本格的な記事にもたどりついた記憶がある。
非常に楽しかった。トラとライオンの強さについて調べている期間は、非常に充実していた。私の人生の中でも上位に入る充実ぶりだった。
色々調べたのだが、何年も前の話なので、細かいことは忘れてしまった。
ネットで得た大まかな結論ふたつがコチラ。
・そもそも生息地が違う(ライオンはサバンナ、トラは林)ので一生出会うことはない。
・体のつくりが、ライオンは同じ体格のオスと戦う仕様で、トラは小動物を狩る仕様。
ドラマチックではないだろうか。
これは、ドラマCD映えするんではないだろうか。
可能ならば、小動物相手に戦ってきたせいで天狗になっているがケンカはしたことのないトラと、若いオスには負けるがケンカ慣れしているライオンが、ひょんなことから異世界で擬人化して知り合う話を、ぜひドラマCDで出してほしい。
どちらもオスですが声優はどちらも豊崎愛生さんがいいです。ハートフルな展開がいいです。
そして黒歴史プレゼンの後、念願かなって、私は生物部の部長になった。心の広い先輩だった。
……
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