家中のスリッパを椅子の下に収集してしまう件。

居間のホットカーペットで、適当に辞書をめくりながらメモをとる人間。

私のことだ。

小さいころ憧れていた天才の所業「辞書を読む」に、自分史上いちばん近い今日この頃である。

しかし優雅に読んでいるわけではない。ボキャ貧をてっとり早く克服したいだけなのだ。ボキャ貧は克服したいが、小説を読むなどという地道で遠回りな作業はめんどくさい。単語を原液で摂取したい。

その結果「辞書見て使えそうな単語だけ書きだせばいいじゃん」という結論に至った。

今日、数十ページめくって得られたのは「愚論、クロニクル、警護、恵沢、傾聴、傾倒、軽薄、気高い、消し炭、欠席、下僕」である。

見事に「く」と「け」ではじまる言葉しか集まっていない。これを記事に利用しようとしたら、非常にカ行下二段なブログになってしまう。

実のところ、単語を集めている最中、戦っているのは単語ではなく眠気だった。あたたかいリビングでは十五分と経たず、私は意識のとんだ肉塊になってしまう。

そこでスリッパを履き、書斎と呼んでいる物置部屋へ戻った。そこにマイ机があるからだ。

我が家のなかで、スリッパを必ず定位置へ置く人間は私だけである。私以外の人間はみな、スリッパをそのへんに脱ぎ捨てる。困ったものだ。

そのため、スリッパを履きたい時はまず、家のどこかしらに捨て置かれているスリッパを探さなければならない。

というわけで、居間付近で探し当てたスリッパを履いて書斎に戻ったわけだが、スリッパの役目はここまで。

私はイスに座るとスリッパを脱ぎ、正座なり胡坐なりで足を座面へ上げる。寒くてやってられないのだ。ブランケットを巻いて暖をとる。この際、スリッパを揃えたりはしない。

そしてコーヒーをがぶがぶ飲む。

トイレへ行きたくなると立ち上がり書斎を出て、書斎を出たところで床が冷たいことに気づく。そこでそのへんに脱ぎ散らかされているスリッパを履きトイレへ向かう。そしてトイレから書斎へ戻り、椅子に座ってスリッパを脱ぐ。

察しのいい方はもうお気づきだろうか。

私はコーヒーを飲むという作業のかたわら、スリッパの収集も行っている。

おかげで家族は、スリッパを履きたい時には物置部屋までやって来て、ブランケットとイスと得体の知れない紙たちという、ごっちゃりした空間から対のスリッパを見つけ出さねばならない。

私のスリッパ収集癖は、すでに何度も注意されている。そのたび「あぁ、またやってしまったのか」と他人事のように反省する。

怖いのが、自分でもほとんど無意識でやっているのだ。本能でどんぐりを収集するリスのように。

先ほど、いつものようにスリッパを履いて書斎へ戻ったところ、笑えないくらいイス周りにスリッパが散らかっていて、笑った。鼻で。

ちゃんと生きます。

……

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